MASQUERADE

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(……───はーやく帰りてェなぁ…)  水面下でそんなことを考える。  十数メートル先には隙間もないほど密着する男女。かたい抱擁の後には、 窓から差し込む太陽の祝福を受けながらロマンチックなキスを交わす。  今をときめく人気アイドルグループの注目株と、今が旬の若手実力派女優。今季最高視聴率を叩き出した恋愛ドラマの最終回、感動的なワンシーン。  今年で25になる男が高校生役を演じるなんて、と始まる前は仲間内で冗談混じりに笑い合っていたのに、ドラマが始まってみればあまりのハマり役に度肝を抜かされたものだ。  …………って、おい女。コラ。  腕回してんじゃねーよ髪触ってんじゃねーよがっついてんじゃねーよ。ヒロインは大人しくて初心な女の子って設定だったろ。少なくとも役柄上は。 「………カット! 次、ラストシーン入りまーす!」  合図と共に、するりと離れる男の手をあからさまに物足りなさげな顔で見送った女に気付いた人間はこのスタジオにどれほどいるだろう。  やめてくれよ、今季はツアー控えてるってのに、この時期にスキャンダルなんて出てみろ、ソイツだけじゃなく俺らグループに響くんだからな。  この前だって、俺があいつの誕プレに送ったピアスをあんたが真似して買って、それを雑誌でつけたせいで、お揃いだなんだってツイが荒れたばっかじゃねえか。むしろそれを狙ったのか。炎上商法ってやつか。  なんて、どれだけいらいらしてても顔は一ミリたりとも動かないって芸当は、この世界に入ってからすっかり身に付いてしまったもので。 「木佐貫くん、お願いします!」  ああ、ようやく俺の出番か。  ったく、同グループで友情出演なんて気まずいっつーの。しかも最終回なんて、俺完全アウェイだって。  スタジオの隅っこから離れて、スタッフ一人一人に頭を下げて、カメラが囲む中心へ辿り着けばそこはもう別世界。  俺を見下ろしたソイツはスポットライトよりも眩しい笑顔で、俺の名を呼ぶ。 「飛鳥」  伸びやかで耳に心地よい歌声を披露するその声が、女性を虜にしてやまないその唇が、たった三文字を紡ぐだけでどうして、こんなにも胸を引っ掻き回されなきゃならないんだろう。  
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