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夕方、帰るにはまだ早い。
とは言ってももう歩き疲れたし、緊張でくたくた。
手軽に休憩しようとネットカフェに入る。
必要事項をさらさら書き込む聖弥。
あ、聖弥って本名なんだ。
人間疑ってばかりはよくない。
警戒心は確かに必要だけれど。
会員カードを作るのにわたしもまた手を動かす。
受付を済ませて、飲み物をとってからブースに入る。
やっと足が伸ばせる。
名前をちゃんと知って警戒心も薄れたのか、ごろんと横になると聖弥も隣に寝転がってくる。
おいで、とばかりに腕枕を差し出されるから自然にくつろぐ。
電車の音がたまにガタガタと聞こえる。
密室。二人きり。やや暗い場所。
あまり深く考えないのが、わたしの悪い癖だ。
考えるときは考えるけれど、そうでないときとの差が激しい。
この場所のネットカフェ。
どんな音がするのかまで、ちっとも考えていなかった。
「バンッ!」
ふいにする窓を叩くかのような音。
体は強ばり、震えてくる。
今いる場所も忘れて、過去の記憶の中に放り出される。
あの日から、そろそろ一年が経つというのに捕らわれたまま。
聖弥が震えるわたしを抱きしめたけれど、わたしは記憶の中。
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