3/5
前へ
/5ページ
次へ
 次に気が付くと、僕は工場で熔接をしていた。  油臭いツナギに身を包んで、格好悪いマスクを着けて、首だけ真っ赤に焼けていた。  寮暮らしで、三食付き。  お給料は物足りないなんてもんじゃなかったけれど、それでもエリートビジネスマンにはないものがあった。  声の大きい班長、すぐにさぼりたがる同僚、やたらと先輩風を吹かせる同い年の先輩。  あったかい人間関係があった。  寮に戻る前、コンビニで第三のビールとバタピーを買い、公園で色んな話をした。  先輩が女の子を紹介してやる、なんて言ってくれたので喜んでいると、班長が、 「こいつの女友達はブスばっかりだぞ」と言った。  そんな風に言いながら班長は、その女友達と何度か付き合ったりしたらしい。  僕はそれを聞いて笑った。  毎日変わらないけれど、平穏で平凡な幸せがそこにはあった。  こんな将来なんて虫酸が走るな、と。  僕は思った。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加