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家に帰って来ました。普通より少しだけ高級だと言われているらしいマンションの7階の角。ここが僕と家族の家です。
「ただいま」
「おっかえりぃー電子!!」
っと。
ドアを開けるなり奇声を発しながら飛び掛かかって来る姉をするりと躱すのが僕の日課なのです。
「もぉー、よけないでよ!!」
正直うざいです。何回か近所のリサイクルショップに売ろうか本気で考えました。
24にもなって高校生の弟にベタベタくっつく姉なんて必要ないですまじで。
茶髪ボブで横髪を毎回違うかわいらしい髪留めで耳を出している未だに幼さが残る顔立ちをした社会人2年目の姉――加奈子(かなこ)は顔面から玄関に落下したせいで鼻を抑えて懇願する。
まぁ、こんな姉でも今となってはたった一人の僕の唯一の2親等の家族です。
1親等、つまり僕の両親は既にこの世界にはいません。
亡くしました。5年前に。不慮の事故で。
言ってしまうのは簡単ですが、当事者には言うことも辛いです。
「加奈子姉、なんか焦げ臭いんですけど……」
まぁ、そんなことは5年もあれば忘れてしまいますよ。……思い起こさなければ……ね。
いずれ詳しく話す時が来るかもしれませんけど、今はこの焼き魚っぽい焦げた臭いをなんとかしなきゃ。
「あっ!! やばい」
いちいち口に出さんでもいいわ!!
僕はその場に背負っていたリュックを置き、急いで台所へ向かう。
「気をつけてー、電子」
使えない姉の為に。
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