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「…そうか、先生はもう弁護士を引退されたのでしたね…。」
天張先生は一昨年、自分の力に限界を感じ引退したそうだ。
「あぁ…。
…でも雷光君、今はそんな話をしている場合ではないだろう?」
「そうですね。
今は弁護人として、依頼人の無罪を立証するために、全力を尽くすべきですね。」
俺はにっと微笑んだ。
「その意気だ。
それでは、僕が知っている事件の情報を全て話そう。」
「お願いします。
…俺たち、事件の概要についてはあまり知らないので。」
「分かった、では話そう。
…事件は3日前、神奈木川の川原で発生した。
被害者は呉踊 照信(ごよう てるのぶ)…。
…僕の古くからの友人だ。」
「ええぇぇぇぇっ!!!?」
綾音がいきなり悲鳴をあげた。
「どうしたんだ、綾音?」
「…照信叔父さんが…殺されたなん…………っ。」
綾音は最後まで言いきることができず、その場にへたれこみ、大粒の涙を溢した。
(……今回の事件の被害者は、綾音の親族だったのか…。)
…いきなり親族が殺されたことを知ったんだ…。
泣き崩れるのも無理はない。
「…君は呉踊の一族の人間だったのか…。
…いきなり残酷なことを言ってしまって、すまなかったね…。」
「いえ、いいんです…。
…それより、話を続けて下さい。」
綾音は涙を拭い、立ち上がった。
…現実を素直に受け入れる強いハートをもっている…それが綾音だ。
(やはり綾音は、将来有望かもしれないな。)
俺は目を閉じて、口角を緩めた。
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