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暑い……。
とにかく暑い。
もうどれくらい歩いただろうか。
少し前を行く健は、道なき道を木の棒でかき分けながら黙々と進んでいる。
おいおい。
もう諦めてもいんでないかい?
心の中の叫びは当然健には届かず、足は前へ前へと進んで行く。
はあ。
行くしかないか。
俺はしぶしぶと幻の水神湖を目指し、歩く。
今朝から、早速河童探しは始まった。
開始時間は、なんと朝の五時。
……気合い入りすぎだろ。
健の家に集まって、俺たちは自転車で水神川まで出発した。
水神川に到着し、川に沿って上流に向かったまではいい。
川の上流に向かうというのは、そんな簡単なことではなかった。
河川敷がどこまでも続いていくわけもなく、俺たちはもうこれは自転車で進めないだろうという藪に突き当たった。
「……これは、進めないな」
俺がそう言うと、健はおもむろに自転車を降りた。
おいおいおい。
まさか。
「翔。こういう言葉を知ってるか。『僕の前に道はない。僕の後ろに道はできる』」
「…………」
なんかそれ車のCMで言ったな……。
健は地面に落ちていた木の棒を拾い上げた。
そして、それを真っ直ぐに固く閉ざされた藪に向けた。
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