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修司はクローゼットを開けると、一番奥にしまってあったビニールカバーのついた背広に手をかけた。
就活の為に買った一張羅だが、結局数回着ただけのそれに袖を通すと、もう一度タバコを吹かした。
白く煙る室内で、修司の携帯がもう一度鳴った。
通話ボタンに指をかける修司。
「もしもし?修ちゃん?」
修司「あぁ、母さん。どうしたの?早いじゃん」
電話の向こうに母。
無理やり理由をつけて上京したせいで、高校卒業以降父親とはどうも反りが悪いが、母だけは常に気にかけてくれている。
狭い漁師町の酒屋だが、母が切り盛りしている間は潰れる事はないだろう、そういう誰にでも好かれる母が、修司にはありがたかった。
母「今日戻ってくるんだろう?新幹線のお金、大丈夫なのかい?」
修司「仕事が見つからないせいでバイトしかしてないからな、とりあえず金には困ってないから」
母「そう…。修ちゃんなんだかんだ言っていつも無理しちゃうからみんな心配してるんだからね?困った時はいつでも頼んなきゃ駄目だよ?」
(こういうとこが母さんの悪いとこなんだよなぁ…。すぐ本題から脱線して話するから)
心の中で相変わらず心配性な母を思いつつ、修司は話を進める。
修司「で、今日帰るんだけどさ、お金の話だけ?話したかった内容は」
母「あぁ、そうだ。忘れるところだった。帰りに駅前のいつもの八百屋さんに寄ってきて頂戴。お前の名前で果物の盛り合わせ頼んであるから。」
修司「あぁ、いいけど…。つかなんで俺の名前?母さんのでいいだろうに」
母「あんた、馬鹿だねぇ。自分の友達の家に持って行くのにあたしの名前でいい訳ないでしょ。リョウちゃんとこ、行くんでしょ?」
その時修司はハッと気づいた。
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