起キル

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なぜ今日自分が早起きしないといけないのか。 なぜ戻りたくもない実家に帰らないといけないのか。 なぜ背広なんて着ないといけないのか。 榊亮太(さかき:りょうた)…くん。 名前は覚えている。 家の近所で年も同じ。 小学校の頃はずっと一緒に遊んでいた…そうだ。 “そうだ”というのは酷くおかしい単語に感じる。 だって自分は彼を名前しか覚えていないから。 中学生の頃からの疑問だった。 自分には小学校の頃の記憶の一部がない。 記憶喪失なんて代物じゃないと思うのだが、前後の記憶はあるのにちょうどその時期だけが全く思い出せない。 彼の名前も母の昔話の中で覚えた。 よく一緒に出かけて夜まで帰ってこなかった、とか、喧嘩して大泣きした後で、すぐに笑顔になってまた遊び始めた、とか。 自分だけが知らない自分の過去。 上京の理由の半分はそれが嫌で地元を飛び出してきた。 よく知ってる街で自分が知らない自分の過去が、修司には堪らなく不気味に思えてならなかった。
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