序章:蒼い青年

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―――― おじいは何も言わなかった。何も言わずに私の頭を撫でて、悲しい目で微笑んだ。 それがいったい何を意味するのか、私にはわかった。 当時の私にも、察しは付いていた。それでも認めたくなくて、「大丈夫」の言葉をどこかで求めていた。 おじいは嘘をつけない人だった。 ………… おじいのお部屋を飛び出して、私は押し入れに行ったの。そして一日中泣いてて、気が付いたら朝になってたよ。お母さんとお父さんにすごく叱られた。 ―――― 人間の体内の約70%は水分だときく。いったいどれほど泣いたらこの塩辛い水はとまるのか、あの時疑問に思った。 涙と同じくらい込み上げてくる感情が、それを止めておかなかったのだろうと、今になって気付く。 ………… でも私はおじいから逃げたりしなかったよ。だっておじいが大好きだったから、お話ししないのは嫌だったから。 ―――― おじいがそんな話をしたのは、それから一週間後だった。
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