序章:蒼い青年

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*** 物静かな墓地には、水が滴る音がやけに大きく聞こえる。墓参りの時期には少しズレた春の風が、少女の焦げ茶色の髪を撫でた。 亜谷 葉(アタニ ヨウ)は桶から水をすくって、再び墓にかけた。 「ちょっと久しぶりだね、おじい…」 大好きなその面影を浮かべて微笑む。 「おじい、私ね、今日から新しい学校に通うんだよ」 制服の胸に刻まれたワンポイントを、墓に見せるかのように指し示す。 「国家防衛隊附属進学校」 それは確かに、その学校のワンポイントだった。 「私、防衛隊に入って護れる人になろうって思ったんだよ。おじいとの約束、守りたいから」 風が何かを運んできた。 桶の水にひとひら、白い花弁が水面を揺らした。 また誰かが、この花弁の犠牲になっているのだろうか。 桶の中の花弁をおもいっきり踏み潰したくなる。人が傷ついていくのは嫌だった。 「まだ何部に進むかは決まってないんだけど…やっぱり国察部かなぁ?」 見慣れた二人の顔が浮かぶ。 あの人達の部下は…とりあえず嫌だ。 葉の深いため息が、静かな空気に溶け込む。 桶を持って立ち上がる。 また来るね、と墓に微笑み、少女は子猫のような足取りで来た道を駆けてゆく。 墓場は再び、静けさを取り戻した。 .
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