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「またか…」
朝、木の下で死体が発見された。
国察(国家防衛隊警察部)の新山は、頭部に斧が刺さったままの、裂乱によって全身が赤く腫れ上がった、なんとも無惨な死体を目にして、火を付けた煙草の煙の入り混じった深いため息をついた。
今年に入ってから百件は越えているようなケースだ。死因はもちろん"事故死"。他に言い様がない。
刃物、あるいは銃器でその木を狙えば人々は狂乱し、結果がこうなる。切ろうとしても、切れないのだ。
ならば火は…?
ふと思いつき、自分がくわえているまだ火のついた煙草を、木の幹に押し付けようと手を伸ばす。
「やめておいた方が身のためだ。新山、お前は自殺でもする気か?」
手首を掴んでとめられる。
「離せ」
「あぁ、死にたかったんだね。それはとめたりして悪かったな」
優男は眼鏡のレンズの向こうで、吊り上げていた細い目を垂らし、薄笑いを浮かべて毒説を吐いた。
「それに、その過程をぜひ見てみたい」
「過程だと?何の話だ」
「…焼死……」
「あぁ?」
「今年第一の死体がそれだったよ。血まで黒くなっていたから、裂乱にはなっていなかったけどね」
「なっ……!」
火も駄目なのか――…
「そんな有名な、しかも最近のファイルを忘れるとは、国察の第一中部の名が聞いて呆れるね」
「黙れ、鮎川。まだ低部のお前に言われたくない」
「残念ながら、僕はいつまでも幼なじみの腐れ縁の部下として動くのは性に合わなくてね。ついこの間、第一中部に上がったばかりだよ」
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