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鮎川と呼ばれた優男は涼しげな顔で反論する。彼はこの仕事を始めて五年目になる新山を差し置いて、たった一年で中部まで上り詰めた。いずれ追い抜かれる可能性もある。
こいつの部下になるのだけは嫌だ。
もう一つ上の職につきたいと願う新山だった。
「そんな話はどうだっていい」
口を開いたのは鮎川だった。
「ないんだよ」
「何がだ」
「人が燃えた形跡はあるのに、花弁が燃えた形跡がない」
新山の背中がひんやりと冷たくなった。
「そんな…馬鹿な…」
これだけ花弁が舞っているのだ。数枚は巻き込まれて燃えるはず。そして一枚くらいは現場検証で見つかる。
「殺人じゃ…ないのか?」
別の場所で燃えて、運ばれて―――…
「僕も最初はそう思ったよ。だが花弁以外の植物は燃えていたんだ。例えば、被害者が立っていた下の草とかがね。被害者は確かにそこで燃えた」
鮎川は木を見上げて眉をひそめる。
「この木には、不思議な点が多すぎる。まるで意識でも持っているかのように」
この木は一体何なんだ?
花弁を分厚い防衛手袋の付けた掌に乗せ、握り締めた。
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