プロローグ

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*** 「うわぁ~やってるねぇ」 小柄な少女が傘をかついで、野次馬の中から飛び跳ねながら顔を出す。 小春は先週18になったばかりである。しかしその好奇心旺盛な性格と身長は、明らかに12か13に見られてもおかしくない。傘はお手製の防衛傘で、性能も悪くはない。 昨夜、また犠牲者がでたと聞いたので近くを通りがてら、見に来てみれば案の定この人だかりだ。 ふと、誰かが一人、野次馬の中から抜けていった。 小春は首をかしげた。その青年は奇妙な格好をしていた。 袖が妙に長く、服が上下つながっている。ワンピースというわけでもなさそうだ。腰には太めのリボンが巻かれており、何かが刺さっている。靴はあまりに薄いような気がした。 何かのコスプレ、もしくは民族衣裳だろうか。 好奇心が沸き上がる。 小春は軽い足取りで青年に近づいた。 「そこのおにーさん」 青年は小春の声に振り向いた。 目を見張るしかなかった。 腕から首、顔の肌の色まですべて一色。まるで防衛具を着ていないかのように見える。しかし、その透き通るような白い肌には赤い腫れも見当たらない。 いや、それ以前に…… 美形だった。 艶のある、首筋までの短い黒髪が肌の白さを引き立たせる。眉の位置、鼻の位置とのバランスが絶妙に整い、穏やかな目をしていた。 完全に、小春の心は射ぬかれていた。 「何かご用でしょうか」 青年の声にハッと我に返る。 「あ…あの…珍しい服を着ていらっしゃって…」 これが女の性(さが)というものだろうか。声が完全に裏返っている。 青年は不可解な表情を浮かべた。 「すみません、急いでいるので」 野次馬に紛れる時間はあるのに、急いでいる?これじゃあまるでナンパの断り方ではないか! 思考回転力は速かった。 「…こころなしかナンパと勘違いしてます?」 「違いましたか?」 青年は即答だった。 「まるで私がナンパしているような言い方、止めてください!」 小春はまったく自覚していなかった。はたから見れば、明らかにナンパだということに。 「違っていたのなら申し訳ありませんでした。では私はこれで…」 青年はきびすを返して立ち去ろうとした。 「あ、待って待って」 小春は青年の長い袖を引っ張った。
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