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「うわぁ~やってるねぇ」
小柄な少女が傘をかついで、野次馬の中から飛び跳ねながら顔を出す。
小春は先週18になったばかりである。しかしその好奇心旺盛な性格と身長は、明らかに12か13に見られてもおかしくない。傘はお手製の防衛傘で、性能も悪くはない。
昨夜、また犠牲者がでたと聞いたので近くを通りがてら、見に来てみれば案の定この人だかりだ。
ふと、誰かが一人、野次馬の中から抜けていった。
小春は首をかしげた。その青年は奇妙な格好をしていた。
袖が妙に長く、服が上下つながっている。ワンピースというわけでもなさそうだ。腰には太めのリボンが巻かれており、何かが刺さっている。靴はあまりに薄いような気がした。
何かのコスプレ、もしくは民族衣裳だろうか。
好奇心が沸き上がる。
小春は軽い足取りで青年に近づいた。
「そこのおにーさん」
青年は小春の声に振り向いた。
目を見張るしかなかった。
腕から首、顔の肌の色まですべて一色。まるで防衛具を着ていないかのように見える。しかし、その透き通るような白い肌には赤い腫れも見当たらない。
いや、それ以前に……
美形だった。
艶のある、首筋までの短い黒髪が肌の白さを引き立たせる。眉の位置、鼻の位置とのバランスが絶妙に整い、穏やかな目をしていた。
完全に、小春の心は射ぬかれていた。
「何かご用でしょうか」
青年の声にハッと我に返る。
「あ…あの…珍しい服を着ていらっしゃって…」
これが女の性(さが)というものだろうか。声が完全に裏返っている。
青年は不可解な表情を浮かべた。
「すみません、急いでいるので」
野次馬に紛れる時間はあるのに、急いでいる?これじゃあまるでナンパの断り方ではないか!
思考回転力は速かった。
「…こころなしかナンパと勘違いしてます?」
「違いましたか?」
青年は即答だった。
「まるで私がナンパしているような言い方、止めてください!」
小春はまったく自覚していなかった。はたから見れば、明らかにナンパだということに。
「違っていたのなら申し訳ありませんでした。では私はこれで…」
青年はきびすを返して立ち去ろうとした。
「あ、待って待って」
小春は青年の長い袖を引っ張った。
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