マルクとリル

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「先生、妹の容体は相変わらずなのでしょうか……」  医師を神と同列に崇めたような声音で、十八歳の青年マルクは尋ねた。 「マルク君、すまない……。私には、少しでも病の進行を遅らせることしかできない。この戦時下だ。もう、正直薬も厳しくなってきている……」  医師は、己の無力さと時代の不条理さを悲観するように首を振った。 「そう、ですか……。わかりました」  マルクはその碧眼を細め俯く。 「本当にすまないね。イルミダとアルドの戦争さえ、早く終われば……。アルド側には、この病に効果があるという薬があるのに……」  医師はマルクの肩に手を置いて語った。 「もっとも、最前線で日々闘っているマルク君には言わなくても承知かな」  マルクは首肯する。 「今日の治療費です。わざわざ足を運んで頂いてありがとうございました」  医師すら戦争の被害者だ。それが理解できているから、マルクは素直に感謝の言葉を言えた。 「お大事にね。マルク君も気をつけて」  医師はコートを纏い、帽子を目深に被りながら、帰路へその歩を進めた。
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