3人が本棚に入れています
本棚に追加
「先生、妹の容体は相変わらずなのでしょうか……」
医師を神と同列に崇めたような声音で、十八歳の青年マルクは尋ねた。
「マルク君、すまない……。私には、少しでも病の進行を遅らせることしかできない。この戦時下だ。もう、正直薬も厳しくなってきている……」
医師は、己の無力さと時代の不条理さを悲観するように首を振った。
「そう、ですか……。わかりました」
マルクはその碧眼を細め俯く。
「本当にすまないね。イルミダとアルドの戦争さえ、早く終われば……。アルド側には、この病に効果があるという薬があるのに……」
医師はマルクの肩に手を置いて語った。
「もっとも、最前線で日々闘っているマルク君には言わなくても承知かな」
マルクは首肯する。
「今日の治療費です。わざわざ足を運んで頂いてありがとうございました」
医師すら戦争の被害者だ。それが理解できているから、マルクは素直に感謝の言葉を言えた。
「お大事にね。マルク君も気をつけて」
医師はコートを纏い、帽子を目深に被りながら、帰路へその歩を進めた。
最初のコメントを投稿しよう!