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「お兄ちゃん?」
弱々しい衰弱した声。乾いた咳混じりの少女が目を覚ます。
「起こしてしまったか。リル 、大丈夫か?」
マルクはベッド横の丸い木製の椅子に腰かけた。
「……うん。大丈夫」
六歳離れた妹のリルの強がりは、マルクの心を何者の斬撃も鋭利に切り裂き、槍よりも正確に一点を貫いた。
「無理に体を起こさないでいいから寝てろ」
マルクは諭し、リルの毛布をかけ直す。
「うん。お兄ちゃんこそ疲れてる? 顔色悪いよ……」
リルの瞳にはただ“心配”その一色で染まっていた。
「そうかな、元気だよ。今日も無事、リルの手を握れてるからな。大丈夫だよ」
今にも折れてしまいそうに細く、それでも生を諦めていないリルの手を、マルク握る。
この習慣だけがマルクの心を保った。
毎日、血臭と死臭、不条理の中を生き抜き、精神を擦り切らす。睡眠すらまともに行えない。
(今の俺は酷い顔をしてるんだろうな)
マルクはわずかに口元を自嘲に歪めた。
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