マルクとリル

3/4
前へ
/19ページ
次へ
「お兄ちゃん?」  弱々しい衰弱した声。乾いた咳混じりの少女が目を覚ます。 「起こしてしまったか。リル 、大丈夫か?」  マルクはベッド横の丸い木製の椅子に腰かけた。 「……うん。大丈夫」  六歳離れた妹のリルの強がりは、マルクの心を何者の斬撃も鋭利に切り裂き、槍よりも正確に一点を貫いた。 「無理に体を起こさないでいいから寝てろ」  マルクは諭し、リルの毛布をかけ直す。 「うん。お兄ちゃんこそ疲れてる? 顔色悪いよ……」  リルの瞳にはただ“心配”その一色で染まっていた。 「そうかな、元気だよ。今日も無事、リルの手を握れてるからな。大丈夫だよ」  今にも折れてしまいそうに細く、それでも生を諦めていないリルの手を、マルク握る。  この習慣だけがマルクの心を保った。  毎日、血臭と死臭、不条理の中を生き抜き、精神を擦り切らす。睡眠すらまともに行えない。 (今の俺は酷い顔をしてるんだろうな)  マルクはわずかに口元を自嘲に歪めた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加