心配性だった彼女

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「驚かせてしまって…すみません。 私、短期間でどうしても早く走れるようになりたいんです。 それで、佐倉さんに頼ったら《俺のクラスに超早く走れるようになるトレーニング法を知ってるやつがいる》って聞いて…、それで…。」 やっぱり優太が黒幕か。 優太は口パクで「ごめんなー」と言っている。 そのせいで僕の頭の奥がジンジンと熱を帯びたように痛くなっている感じもしてきているというのに。 「柊さんは中学時代に陸上部に所属していた、と聞きました。 短距離で全国大会一歩手前まで行った、とも。」 「…。」 事実だ。 しかし、僕は否定のことばも校庭の言葉も掛けない。 掛ける余裕すら、ない。 「ですから、そのときの練習メニューを教えていただきたいんです。 お願いします、教えてください。」 遠山さんは、がばっと頭を下げて僕のお願いをするが、その声に被る様に智恵がドスの効いた声で呟く。 『断っちゃえばいいじゃない。 いやでしょ、こんな女に頼まれたからって了解する必要なんてない。 明は「速く」走りたくないんだから。 明のことを何も知らないくせに、よくぬけぬけと。』
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