心配性だった彼女

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二人が帰って、しばらくの沈黙。 先にその静寂を打ち破ったのは当たり前だけど僕ではなく、喧嘩っ早い智恵だった。 『…なんで引き受けたの。』 彼女はあれからずっと下を向いていたので、少しは機嫌が良くなったかと幻想を抱いたが、もちろんそんなわけではなく。 彼女のため息には熱い、怒気がこめられているような気がした。 そんな彼女に諭すように返答する。 「あんなに必死に頼み込んでいるのに、僕のトラウマのせいで断るわけには行かないでしょ。」 『トラウマのせい!? むしろ、トラウマがあるから断るべきでしょ!? 何で明はいつも他人優先して、自分の意見は言わないの!?』 「…そういうわけじゃ、ないよ。 これが、僕の、自分の意見だよ。」 『嘘。』 智恵の顔が間近にまで迫る。 そして、もう一度 『嘘よね。』 と、確認するように言った。 「な、んで?」 『…明が返答するときに何で?って言う時は嘘をついてる時だから。』 …否定も、反論も出来ない。 『…明が決めたことなら、私にどうこう言う資格はないけどさ。 でも、無理はしないで欲しいの。』
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