彼女の思い、僕のトラウマ

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「…言い方を変えよう。 君は3年間リハビリを頑張った結果、歩けるところまで回復した。 だからこそ以前、陸上をやっていたときのように「速く」走ることは出来るかもしれない。 だが、走った後、日常生活を送れるかは保障は出来ない。 走った後に痛みや熱を一時的に持つかもしれないが、身体的な日常生活は送れるとは思う。 …心配なのは、精神的な面だ。 だから、私は体育の授業以外で君に走ることを禁止した。」 先生は相変わらずに淡々と、ただの事実を僕に突きつける。 しかし、僕ももうただ黙っているだけの僕ではない。 自分の意思を、喉元から、もっと深いところから。 「…僕は、走りたいんです。 体育とかで自分の力を押し殺してちゃらんぽらんに走るだけじゃなくて。 ちゃんと、速くなりたい。速く走りたい。 …だから、今日は許可をもらいに着ました。」 「許可、ね。」 深野先生の眼鏡の奥の茶色い瞳がきゅっと細くなる。 僕の心の奥を見透かすような瞳。 「3年前、君は歩くことさえ困難になった。 しかし、その運命に諦めずにリハビリを頑張った。 でも、3年前君が歩くことが困難になった原因を思い出しても…君は、柊くんは、」 深野先生は一拍置いた。 その1拍がとてもとても長く感じられたのは僕だけなのだろうか。 後ろに立っているはずの智恵も長く感じられたのだろうか。 ドクン、と心臓がなる。 「平常心でいられるのか?」 3年前に僕が走れなく、歩けなくなった原因を思い出す。 一気に、全てを、逆再生のような感じで。
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