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皆さんは、冒険に出かけたいと思ったことがあるだろうか。
人生に一度で良いから、まだ見ぬ土地や場所を訪れてみたい―小さな頃にそんな夢を抱いた人は、私の周りにも多いようだ。
私の妻、ビトリアもそんな冒険心に溢れた少女だった。いや、今もそうであると言ったほうが良いだろう。違うのは、見た目の上では今や「少女」ではなく「女性」であるという部分ぐらいか。
いまや、『聖女』という呼び名を世間から授かって久しいこのビトリアも、私にしてみれば今もって、10年前のお転婆な少女に見えるときがままある。
「プラド!いつまで書斎にこもってるの? 晩御飯の買い物行くよー!」
隣の部屋から響いてくる透き通った声も、10年前のそれと全く変わりがない。私もまた、いつものように返事を返した。
「分かったよ。だけど・・・ 帰ってきたらご飯が出来るまで、もうひと踏ん張りさせてね」
「言われなくっても!あたしとプラドの、愛の物語なんだからさ。気合入れて頼むよ!」
そう言われると歯がゆいのだが、あながち間違いではない。買い物袋を引っ張り出すビトリアの傍に近づきながら、私は笑って答え返した。
「正確に言えば、私達みんなの、だからね?さあ、買い物に行こうか。」
「もぉ、愛のこもったジョークをスルーしないでよ!晩御飯、変なの作っちゃうからね」
「そうなる前に、変な食材を選ばないように目を光らせておくから安心しといて」
いつもの調子。これも、互いの想いにまだ気づいていなかった10年前と大して変わってはいない。
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