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歩き始めて二日目の夕方。
俺達は思いがけない危機に陥った。
野犬の群れに囲まれたのである。
ここに住む犬達は五、六匹の集団で暮らす。俺達は運悪く獰猛な犬達の狩りの標的になってしまったようだ。
ぐるぐるとうなりながら、俺達を取り囲むように円を描く犬達。
犬相手では走って逃げても無駄だ。もし彼女を囮にすれば、俺は助かるだろう。彼女に出会ったばかりの時の俺なら迷わずそうしただろう。だが、今の俺にはそれがなぜだかいけない事のように思えた。
俺は鞄に干し肉が入っていることに思い当たった。しかしこれは俺達の食料だから、ここの犬が満足する程に与えてしまえば俺達が餓死してしまう。どうすればいい。
俺はナイフを取り出し、彼女にも予備のナイフを渡しておく。そして、干し肉を一切れだけとりだすと、三匹の犬が比較的集まっているところに向けて投げた。
三匹が肉に気づき、そこへ向かう。群れの規律が乱れた。未だ俺達に狙いを定める二匹に向かって俺は走って行き、ナイフで首を狙って切る。血が噴き出す。もう一匹も同様に切り、肉を奪い合う三匹へと向かう。
血の匂いに気づいた三匹が肉から離れ、こっちへ向かってくる。跳びかかって来る一匹をナイフで刺し、噛み付こうとしてきた一匹を足で蹴りつけ、かかとで脳天を割ったが、一匹が彼女へと向かってしまった。
俺はとっさに彼女の名前を呼ぼうとして、まだ名前を知らないことを思い出した。
彼女は持っていたナイフで跳びかかって来た犬を刺した。犬の血が彼女にかかる。
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