8人が本棚に入れています
本棚に追加
歩き続けること七日ほど。俺たちはようやく泉に着いた。
野犬に襲われた次の日辺りから、彼女は体調を崩した。犬に引っかかれて出来た傷に犬の血液がかかって病気に感染したのだろう。俺もその病気にかかった事がある。酷いときには死んでしまうが、一度感染すれば免疫が出来て二度とかからなくなる。彼女は免疫がなかった。
泉のほとりにある木々のふもとに彼女を休ませておき、俺は水をくみに行った。
皮袋いっぱいに水を汲んで帰ってくると、彼女は酷く辛そうな様子で横たわっていた。
かなり危ない状態だ。熱が恐ろしく高く、呼吸が浅い。
彼女は目を開けて、弱く息を吐きながら言った。
「もう、駄目かもしれない、ね」
絶対に助かる。そう思いたかった。
「今まで、ありがとうね。犬と戦ってたの、かっこよかったよ」
勝手に死ぬな、とだけ思った。俺はまだ猫ハンバーグも作ってもらってないんだぞ。
「ごめんね、ごめん」
沈黙。
「お願いがあるの」
「何だ?」
「私が死んだら、残さずに食べてね、骨になるまで残さずに」
「どうして?」
「死んでも、だれかにわたしの全てを食べてもらえたら、その人の中で生きられるような気がして」
「なにかの宗教か」
「違うよ、私が思ってるだけ」
沈黙。
「絶対に。お願いだから」
「わかったよ」
「絶対だよ。骨になるまで、絶対に。約束だよ」
「わかった。約束する」
「ありがとう」
俺は、彼女の胸に耳を付けた。
とくん、とくん、と弱弱しい音が聞こえて、俺は泣きそうになった。
最初のコメントを投稿しよう!