8人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女は程なくして息を引き取った。
俺は何をする気にもなれなかった。
彼女を抱きかかえて木の幹にもたれたまま、ぼんやりと風に揺れる樹の枝を眺めた。
俺の頭の中に、彼女の鼓動が響いた。最初に聞いた力強く速い鼓動。死ぬ直前の、弱弱しくかろうじて収縮を繰り返す音。それが耳鳴りのように、ずっと聞こえ続けていた。
温度を失った彼女の胸に耳を付けてみようと思ったが、どうしても出来なかった。
そして次の日、彼女の死体の隣で俺は目を覚ました。深呼吸の後、思い切って彼女の胸に耳を当てた。何も聞こえなかった。
当然だ。彼女は死んだのだから。
納得できていなかった現実がようやく俺の中で解凍された。目から涙があふれ、ぼやけた視界の中で彼女の解体にとりかかる。彼女の体にナイフを突き立てている間、涙が止まらなかった。
最初のコメントを投稿しよう!