0人が本棚に入れています
本棚に追加
少年は廃ビルの階段を登っていた。
この一歩一歩が死に向かっているかと思うと少し怖くなったが、少年の足は止まらない。
少年は屋上のドアの前にたった。
ゆっくりとドアノブに触れる。
そして、ドアを開けた。目の前に飛び込んで来たのは、夕焼けに染まった町並み。
この町は海沿いに面していて、町の向こう側にはオレンジに染まった海も見える。
少年の一番好きな景色だ。
夕焼けになぜ人は美しさを見いだすのか、少年はこう考える。
それはそこに闇が待っているからだ。
だからこそ、もうすぐ無くなってしまう儚く頼りのない光に人は美しさを見いだすのだと思う。
少年はゆっくりと足を動かし、ポロポロになったフェンスを乗り越えた。
そして、死の瀬戸際に立つ。
この美しい景色とともにこの世を去ろう。
そう決めた。
太陽はゆっくりと、しかし確実に海に沈んで行く。
あと、少し。
あと少しで町から光が無くなる。
今だ。
少年は全身の力を抜いた。
そして、少年の体をゆっくりと死に向かって堕ちて 逝く。
その時。
「ホント、綺麗よね」
美しい声が少年の
耳に
頭に
体に
心に、響いた。
最初のコメントを投稿しよう!