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……ウソだろ。
来たとき気付かなかったのか……。
「あなたの行動を一から十まで見てたわ」
「……………」
なんか恥ずかしいな。
「夕焼けがなぜ美しいかとかなんとか言ってたのも全部ね」
「それは声に出してなくない!?」
「よくもまあ、あんな堂々と恥ずかしいことが言えるわね。こっちが恥ずかしくなったわ」
えぇー!
うわっ、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
しっ、死にたい。
今すぐこっから飛び下りたい。
しかし、不思議と最初ここに来たときの気持ちは小さくなっていた。
そういえば、まだ名前を聞いていないことに気づいた。
「……君、名前は?」
「人に名前を聞くときはまず自分からってママに習わなかった?」
いちいちトゲのある言い方をする人だ。
しかし、ごもっともだ。少年は自分から名乗ろうとする。
「俺は、」
「やっぱいいや」
「なっ!」
少女は急に手のひらを返すように少年の言葉を遮った。
「考えてみれば、あなたの名前なんてなんの意味も持たないもの。私、意味のないものは覚えたくないの」
「…………」
そう、だよな。
今日、いなくなる人間の名前なんて覚えてもしかたない。
「……じゃあ、君は?」
少年は訊ねる。
意味なんてないが、死ぬ前に人ひとり覚えててもなんら支障はないだろう。
「私? 私はね……」
少女はまたニッと笑った。
「天使」
少女は確かにそう言った。
天使の笑顔で。
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