十二月

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「なあ、凪。 クリスマス、予定無いよな? クリスマスは俺と過ごすぞ。」 「は? ……予定はないけど。 何だその強制的な決定は。」 「そうだ、今年は祝日もあって三連休だった。 学校も冬休みだし、ゆっくり出来るな。」 「勝手に決めるなっ!」 俺を無視して話を進める舞瀬の前に回って抗議する。 ぐっと睨むと、舞瀬は少し寂しさを滲ませた笑顔を見せた。 普段見せないような表情に、抗議の声が止まってしまった。 「…凪は母親が亡くなってからそういうのやってこなかったんだろ?」 母さんが居なくなった俺の家に、クリスマスなんて無くなった。 子供心に寂しいなんて思ったときも一瞬あったが、全てを諦めた俺は、そんな気持ちも消していた。 「やっぱさ、そんなの寂しいって。 世の中の俗物的な行事かもしれないけどさ、そこはありがたく乗っかろうぜ?」 さっきとは違う優しい笑みで、舞瀬は子供を扱うようにぽんぽんと頭を撫でてきた。 「それにどの国でも、クリスマスは大切な人と過ごす日なんだよ。 俺にとって大切な人は凪だから。 俺は凪と一緒に過ごしたい。」 その言葉に強制的な力は無かった。 ただ、凪はどう?という視線だけを向けて返事を待っている。 「俺も、舞瀬と…舞瀬と、クリスマスを過ごしたい。 またあの頃みたいに、楽しい時間を過ごしたい。 もし…っ」 「ありがとうっ、凪!」 「ちょ…っ、こんなところで抱きつくな!」 勢い良く抱き締めてきて、俺は体勢を崩しそうになる。 それも、舞瀬はしっかりと支えて包み込んでくれた。 「凪、良いクリスマスにしよう。 絶対に忘れられないような、楽しいクリスマス。」 「……うん、そうだな。」 本当は、もし許されるなら、と言いかけたのは知らせないことにする。 俺が愛すること、幸せになることを教えてくれたのは、他でもない舞瀬だから。 もう、許しなんてとうに得ていた。 全身から伝わってくる、舞瀬の気持ちに、俺はもうプレゼントを貰った気分だ。 お返しは何が良いだろうか。 驚くようなものか、笑ってくれるようなものか。 何にしろ舞瀬が喜んでくれるものをあげたい。 考えているだけで、楽しくなってくる。 抱き締められている体勢は少し辛いけど、それさえも幸せに思えて俺は微笑んだ。
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