彼らは主をさえ否みて速やかなる滅亡を自ら招くなり 

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身体を揺さぶる激しい衝撃で、パウルは悲鳴を上げそうな体中の痛みと共に目を覚ました。 体に伝わるエンジンの響きと振動・・・パウルはうっすらと目を開けて周りを眼だけで伺った・・・。 空は・・・見慣れた鉄の天上ではなく、薄雲が差す星空だった・・・。 ああ、俺は内火艇か何かに乗っているのだな・・・。 いや待て・・・何故・・・? それに・・・シルカは・・・? パウルは身体を動かそうとしたが、身体が言う事を聞かなかった・・・。 シェスターに撃たれた腹部が燃えるように熱く・・・言い表せないような痛みを発した・・・。 「・・・。」 パウルの言葉にならない声に気付いたのか、赤十字の腕章をした若い男性がパウルに、ハノーヴァー訛りのあるドイツ語で言った。 「大尉さん少し我慢して下さい。もうすぐでレター・ペイパー号に移乗しますから。」 そして、パウルに笑いながら言った。 「大丈夫ですよ、素敵な奥様はすでにレターペイパーに移乗しています。」 その言葉に、パウルは一瞬痛みを忘れて目を閉じた。 パウルに意識があるのを見た男性はパウルに言った。 「軍隊手帳によると、血液型はA型で間違いないですか? そうであれば瞬きを一回して下さい。」 パウルは瞬きを一回すると思った・・・シルカ・・・無事でよかった・・・。 パウルがそう思った時、突然砲撃音がした・・・。 「うわあっ・・・ヤンキーって本当に気が短いな・・・いきなり脅しかい・・・?」 パウルは痛みをこらえながら・・・今の砲声の事に考えを巡らせつつも・・・シルカの顔・・・して、アイアンとタイムの顔を思い浮かべていた・・・。
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