メフィスト達の宴

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珍しく空襲の無い夜だった。ベルリンのフリードリヒ街にあるバーに男たちは集まっていた。 カウンターやホールのあちらこちらでは、陸海空軍の将校や親衛隊の将校はグラスを片手にドイツのこれからについて語り合い、そこかしこで熱い議論が交わされいてた。 喧騒の中、男たちの中で最も階級の高い男が口を開いた。  「たとえ、何と言われようと戦争だけは負けてはいけない。」 アメリカのパットン将軍がイタリアの喉元であるシチリア島のメッシナに入城した翌日の1943年8月16日、ドイツを憂いた男たちのこの集まりで、主賓であるドイツ帝国親衛隊の制服を着、負傷のため、政治的理由で名を変えた将軍は、二本しかない右手の指でグラスを持つとゆっくりと口へ運んだ。
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