~序章~

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夏の夕立。その年は例年よりも多く感じる。居室の中を、そんな事を考えながら忙しなく歩き回っていた。 安達兼通(あだちかねみち)は我が子の誕生を待ち焦がれ、落ち着かない気分になっていた。 「父上、その様にお慌てになられても子はお産まれになりませんよ」 急に声を掛けて来たのは、二女の時(とき)であった。 「儂はそんなに慌てて見えるか?」 多少の気恥ずかしさを隠しながらも聞くと、母に似てきた面差しで、笑ってみせた。 今までに三人の子を設けたが、三人共に女だった。産まれて来る子が、男であることを祈って待っている。
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