狂おしい記憶の中で

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「ここはxを二乗して方程式を加えることで計算が」 チョークのカリカリという音が規則正しく刻まれる。 「・・あれ俺今なに考えてたんだっけ」 俺は寝ぼけ眼で、誰にも聞こえないような声でポツリと呟く。 「考えてない、寝てただけ」 隣の席の四条彩思(しじょう・さいし)は生真面目にノートを取りながらつまらなさそうに消しゴムを投げてきた。 ・・・俺は(誰にも聞こえないような声)で言ったんだけどなぁ 「一頼はすぐ顔に出るからなぁ、馬鹿だから」 と後ろの席から素直という、俺の三大利点を貶さしながら後ろの席から椅子を蹴ってくる奴は、鼓智幸(つつみ・ともゆき)。馬鹿でアホでおたんこ茄子である。 「・・今俺すげーバカにされた気がするんだが」 地味に鋭いのでさらにムカつくし気持ち悪いのである。 「いや進行形。されてる気がする」 「うるせぇばーかばーか」 「うわ!露骨になった!」 「鼓、後ろ」 彩思がまたもつまらなさそうに言う。 「はい?」 ズバンッ 数学教師のチョップが脳天に決まる。 「げふ」 どさっ ご愁傷様。 しかし、本当に俺はさっきまで何を考えていたのだろう 寝ていたのだから夢なのかもしれない でもそれとは違うというどこか確信めいたものを感じたんだが・・ 「一頼」 彩思の綺麗な顔がいきなり目の前にあった。 「な、なんだ」 彩思は学力は普通だが顔立ちやスタイルは良い意味で普通ではなく、男子にモテモテって訳なのだが・・ 「授業終わった。食堂行く」 マイペース+大食い+・・・ 「手を引くな、殺意の視線が突き刺さる」 無防備なのである。 「別に良い、それよりご飯」 と言って結局俺の手を取って走る。 「走るな走るな、というか今日俺弁当なんだが」 「A定食」 「は?」 「一頼の弁当は私が食べる。だから一頼はA定食」 「いや意味が分からないんだが」 「元気がない時、私はいつもA定食。これが意味」 「・・つまり元気がないからA定食を食えと」 走りながらなので見にくかったがコクリと頷いたのが見えた。 「主に一頼が寝て起きた後。一頼、とても悲しそうだった」 「・・そうか」 俺はとりあえず考えることをやめ、飯を食うことにした。
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