1 腕に触れて

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「木本、片付けとか終わった?何か手伝う?」 退職を明日に控えて ひと通りデスクの整理や引き継ぎなどを終わらせた歩美が、フロアの隅にある休憩所でコーヒーを飲んでいるところに鳥海がやってきた。 「はい、とりあえずは終わりましたよ。」 歩美は自動販売機でコーヒーをもう一つ買うと鳥海に手渡しながら言った。 「鳥海さん、雪乃の事よろしくお願いしますね。」 「おぅ、分かった。 でも永山はしっかりしてるし、心配しすぎじゃないの、お前。」 相変わらずのくだけた口調で答える鳥海だが、頼りになる先輩だと歩美は思っている。 「そうなんですけど、雪乃、頑張り過ぎちゃう所あるから…」 「そうだな。 まぁ、言われなくてもいつも気にしてるんだけど…」 「はい?」 最後の方は独り言のようになってよく聞こえなかったが、鳥海は少し照れたような顔をしていた。 「鳥海さん、もしかして?」 歩美が尋ねようとした時、 「あ、ここにいたんだ。」 歩美の心配を知ってか知らずか、ニコニコしながら雪乃が小走りに近寄ってきた。 「歩美に聞きたい事があるんだけど」 「あ、そうなの?。 じゃ鳥海さん…」 「おお」 「鳥海さんも戻ってくださいね。課長が探してましたよ。」 「ん、すぐ戻るよ」 雪乃に促された鳥海は残っていたコーヒーを一気に喉に流し込むと、並んで歩いていくふたりの後を急ぎ足で追いかけた。 そして次の日 総務課の同僚の祝福と別れの言葉に送られて、木本歩美は寿退社をしたのだった。 ・
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