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営業課の入り口の前まできた雪乃は一瞬立ち止まり「ふぅ~」と息を吐いてから中に入っていった。
部屋の中は人影がまばらで、やはり澤田洋介の姿も見えなかった。残念なようなホッとしたような気分で、妙に入っていた力が抜ける。
「あれ、永山。何か用?」
同期入社の山崎章吾が声をかけて来てくれたので、要件を伝えて書類を託す。
「分かった、課長に渡しておくよ。」
「よろしくお願いします。」
書類を受け取った山崎はまた少し雪乃に近づいて声を低くして言った。
「あのさ、今年総務に入ったコ、超可愛いよね。河野まゆちゃんだっけ?」
「ハイ、可愛いですよ。
でも今はまだ仕事覚えるのに一生懸命だからあまり気を散らさないでくださいね。」
やんわりとあまり効き目は無さそうな釘を刺してみる。
「ハイハイ。でも誰かに先越されたくないんだよな。
…ていうか、永山、同期の俺にもまだ丁寧語?」
「え、あ、会社ですから…」
少し困った笑顔で答える雪乃に山崎は
「はは、別にいいんだけどね~。
じゃ、預かっておくよ。あ、まゆちゃんによろしく~。」
と、また最後に軽口をたたいて片手を上げると自分のデスクに戻っていった。
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