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雪乃が何気なく足元に目線を落とした時、小さくクラクションが鳴って、顔を上げるとちょうど澤田の白い車が歩道の横に止まった所だった。
小走りに近付いて、すーっと降りた助手席の窓を覗き込むと、澤田が手を伸ばして中からドアを開けてくれた。
「待った?」
「いいえ、今来たところです。」
助手席に座って運転席の澤田と目が合う瞬間は毎回ドキドキする。
「ごめん、暑いのに歩かせて…。」
「大丈夫です。それに今日は割と涼しい方ですから。」
雪乃が笑顔でそう答えた時、澤田の手がすっと伸びて雪乃の頬に指先が触れた。
「でもすごく赤くなってる。」
「…あ」
思わず雪乃が肩をすくめると、澤田も慌てて手を戻してハンドルを握った。
「…えっと、前に行ったパスタの店でいい?」
「はい。」
車がゆっくり走り出す。
「何考えてたの?」
「えっ」
「俯き加減に立ってたから…」
前を向いたまま尋ねる澤田の横顔に雪乃は答えた。
「意外に泣き虫、な理由です。」
澤田の横顔がクスッと笑う。
「今日は俺と鳥海を見てほっとしたから、だよね?」
「はい。でも私今まで涙もろい方ではなかったから…」
「ダメなの?」
「え?」
「泣いたらダメなの?」
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