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営業課を出て「ふぅ」とまたひとつ息を吐いて歩き始めた雪乃は後ろから呼び止められた。
「永山。」
「あ、鳥海さん。どうしたんですか?」
振り返ると捲っていたワイシャツの袖を下ろしながら鳥海が通路の奥から歩いてきた。
「備品倉庫に重いダンボール運ぶの頼まれちゃってさ。」
筋肉質でがっちりした体格の鳥海は力仕事を頼まれやすい。そしてイヤな顔ひとつしない。“いい人”なのだ。
「お疲れ様でした。」
「腹減ったな~。
昼飯行くんだろ?」
「はい、一度戻って河野さんたちと社員食堂に。」
「そうか、俺も行くよ。」
話しながらふたりがエレベーターホールまで来た時、ちょうどエレベーターの扉が開き、澤田洋介が降りてきた。
「あ、先輩!」
鳥海が嬉しそうに声をかけて立ち止まる。鳥海は澤田が営業課に異動してからもずっと慕っているのだった。
雪乃は心臓がドクンと跳ね上がるのを隠して
「こんにちは」
と挨拶をしたが、ちゃんと笑顔が出来ていたか気になってしまう。
「こんにちは、永山さん。」
紺のスーツが細身の体に良く似合っていた。
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