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制服のスカートのポケットから携帯電話を出して、昼休みに来ていた歩美からのメールを開いて読み返す。
『背中の君のこと、頑張ってみたら?
話を聞いてると以前より打ち解けてる気がするよ。』
会社を辞めて花嫁修行中の歩美とはゴールデンウイーク中にも一度会っていた。食事をしながら澤田洋介との様子をしっかり聞き出されていたのだ。
思い違いでなければ、最近はたまたま会った時の会話も、視線が合うことも増えたような気がする。
だからといって自分がどうしたいのかがはっきり分からない。
少し冷たく見える横顔も、笑うと優しげに細くなる目も、すれ違って振り返り見送るその背中も、相変わらずずっと雪乃を惹きつけているけれど、もっと近くに行くことは難しい。
パタンと携帯を閉じてため息をついた雪乃は、手すりに肘を乗せて公園の緑を少しの間眺めていた。
そろそろ戻らなければと缶コーヒーを飲み干した時、上の階の非常扉がガチャッと開く音がした。
誰かが休憩に出たのかな、と思いながら雪乃がドアノブに手をかけた時その声が聞こえた。
「…話って何ですか?」
雪乃は思わずかけていた手を離す。
上からこぼれてきた澤田洋介の声はいつもより固い響きを持っていた。
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