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“背中の君”
それは歩美が名付けた、もちろん2人の間だけの呼び名だ。
それは去年の9月の出来事だった。
その日は仕事の都合でいつもより早く出社した雪乃は 数人の社員と一緒に一階からエレベーターに乗り込んだ。
三階のボタンが押されているのを確認してから、いつものように視線を足元に落とした時、「乗ります」と滑り込んできた人が雪乃のすぐ前に立った。
ライトグレーの扉がしまりスーッと昇り始めたその時、「ガタンッ」と音がしてエレベーターが急に止まった。
足元が一瞬グラッと揺れて電気が消える。
「わっ!」
「何?」
「きゃっ」
驚いた雪乃は思わず前に立っていた人の腕を掴んでしまった。
「ご、ごめんなさい!」
「怖かったら掴まっていていいよ」
慌てて手を離した雪乃にその人が話しかけた。
「あっ!いえ、大丈夫です」
…この声って…
雪乃は自分の顔が赤くなっていくのを感じていた。
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