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フロントガラス越しの夕暮れの空を見ながら口元を綻ばせた雪乃を、チラリと横目で見た澤田はため息をついた。
「姉さん、また余計な事を言ったんだな…。」
「そんな事ないです。…みなさん、良い方ですね。すごく優しくして下さって、嬉しかったです。」
「そうかな?母親とかはいつもはもっと口うるさいよ。…まぁ最初だしね。」
「ふふ、ウチもそうですよ。洋介さんが来てる時の母は大人しいです。」
「はは、そっか。」
澤田は笑いながら伸ばした左手で雪乃の右手を握った。
絡められた指に雪乃の頬が赤く染まる。
「ありがとう、雪乃。」
「え?」
どうして?という雪乃の視線を感じた澤田は前を向いたまま、
「何となく…」
と言って笑った。
お互いの指の感触を確かめながら、車内に静かな時間が流れる。
「…思ったより早く帰れそうだけど、夕飯どうする?」
「えっ‥と、たくさんご馳走になったから、まだお腹一杯で…」
「俺も。じゃ、コンビニで軽いもの買って、俺の家で食べる?」
「…はい。」
「まだ40分位かかるかな。寝てていいよ。」
「大丈夫です。」
ウィンカーの音がして、スッと解かれた指がハンドルに戻ると、交差点に入った車はゆっくりと左折する。
雪乃は膝の上に戻した右手が少し寂しくて、キュッと握ると、自分の左手でそっと包み込んだ。
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