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「今日は海苔の端っこ、残らないで上手く出来たね。」
コンビニで調達してきたおにぎりや調理パンで簡単な夕食を済ませて、ゴミを片付けている雪乃に澤田は言った。
「…よく覚えてますね。」
一年も前のちょっとした会話なのに、と雪乃は少し驚いた顔で澤田の顔を見た。
「はは。…コーヒー入れるよ。」
「あ、はい、手伝います。」
澤田が湯沸かしポットをセットしている間に、雪乃は食器棚からコーヒーカップを取り出す。
「洋介さん、サッカーのリフティング?でしたっけ、すごく上手なんですね。」
「そうかな?一応10年以上やってたからね。」
澤田に背中を向けたまま、引き出しからスプーンを取り出しながら雪乃が小さな声で言った。
「格好良かったです、とっても…。」
カチッとポットのスイッチを入れる音がした次の瞬間、雪乃の体はお腹に廻された腕に引かれて、後ろから抱き締められていた。
手からカチャンとスプーンが落ちて引き出しに戻る。
「ホント?」
耳元で聞こえる声に肯いて答えると、腕の中でクルリと体の向きを変えられて、顔を覗かれる。
「顔見て言って欲しかったな。」
澤田はそう言って笑うと雪乃を胸に抱き寄せてため息をついた。
「今日ずっと我慢してた。こうしたかったけど、さすがに実家だとね。」
「…うちに来た時はあんな事しておいて…」
独り言のように、珍しく非難めいた言い方をした雪乃に澤田がクスッと笑う。
「あんな事って?」
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