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「…どうした?」
そう訊きながら体を離そうとした澤田の首に雪乃が腕を回して抱きついてくる。
耳元で呼ばれた自分の名前と、熱いため息の意味を確かめるように体重をかけると、その答えははっきりと返ってきた。
一層熱を帯びた時間が過ぎる。
「…わたし、おかしい…?」
途切れ途切れに訊いてくる雪乃に澤田は優しく微笑んだ。
「…そんなこと無いよ。」
涙を溜めた目で雪乃も恥ずかしそうに微笑み返す。
素直に自分を求めてくれる雪乃が愛しくて、気持ちを込めて抱きしめる。
「俺の雪乃…。」
囁きとそれに応える声と吐息が、ふたりをさらに高みへと誘っていった。
雪乃を送って戻ってきた時のひとりの部屋は静かすぎる、と澤田はいつも思う。
ベッドサイドの机の引き出しから小さな四角い箱を手に取りそっと開けてみる。
雪乃と付き合い始めて一年にも満たず、まだ早いだろうかと躊躇する自分がいた。
けれどもう離れていたくない、離れている理由がないと、今夜は心の底から思えた。
雪乃は喜んで受けてくれるだろうか。
澤田は心に確信と少しの不安を抱えて、パタンと蓋をしめた箱を大事そうに引き出しに仕舞った。・
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