3352人が本棚に入れています
本棚に追加
「…本社に1ヶ月、ですか?」
「ああ、その位になると思う。頼めるか?」
週が明けて半ばの水曜日、朝礼が終わってすぐ澤田は営業課長に呼ばれた。
「さっきの朝礼での話は聞いてたな。」
「はい。」
その日の朝礼は、本社の営業部の社員が外回り中に交通事故にあったので、こちらでも十分に注意するように、という話だった。
「まぁ、貰い事故だったから非はないんだが、運が悪いことにその営業車にたまたま三人乗っていて、ひとりは軽傷で二人はしばらく入院するらしい。」
「…それで応援を?」
肯いた課長は眉根を寄せて続けた。
「こっちも余裕がある訳じゃないんだが、事情が事情だからな。…澤田は大学が東京だったから土地勘はあるだろ。」
「…はい。」
「それに…」
課長は澤田の顔をしっかりと見据えて続けた。
「本社のやり方や雰囲気を経験する事は、お前自身のこれからの為にもなると思う。」
返事はひとつしかなかった。
「…わかりました。」
「そうか。…こっちも向こうも仕事の調整があるから、来週からだ。詳しい事はまた後で話す。」
「はい。…では。」
「よろしくな。」
ポンポンと澤田の肩を叩いて部屋を出て行く課長の背中が見えなくなってから、澤田は大きなため息をついた。
「何で…今、このタイミングで?」
・
最初のコメントを投稿しよう!