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澤田はこの話が決まってから心の中で自問を繰り返していた。
こうして雪乃を横にしても答えは出ない。
実家に行った日の夜に、先に進もうと決めた気持ちは一度仕舞い込むしかないのだろうか。
たかが1ヶ月…焦っても仕方ないとも思う。
けれど側にいられない時も雪乃を少しでも自分に縛っておきたいと思う、自分の欲に苦笑する。
雪乃の横顔を見ると、後ろで一つに結んである髪が風で少し解けて頬にかかっていた。
「…緑が綺麗ですね。」
雪乃がぽつりと呟くように言った。
「うん。…そろそろ戻らないとかな。」
時間を確認しようと上げかけた澤田のワイシャツの腕を雪乃の手がキュッと掴んだ。
「もう少し…」
澤田を見上げる瞳が揺れて雪乃も戸惑っているのだと分かる。
大丈夫、というように微笑んだ澤田の長い指が、解けて頬にかかる雪乃の髪を掬って耳にかけた。
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