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閉じ込められた怖さと胸の鼓動を押さえようと、雪乃は胸に手を当てた。
「落ち着け…落ち着け…」
実際は短いのに長く感じた数分が過ぎて、パッとエレベーター内の照明が点いた。
同時にインターホンで管理室と連絡がつき ホッとした空気が流れる。
そして雪乃の目の前には白いワイシャツの背中とさっき掴んでしまった腕があった。
細身に見える人なのに しっかりした筋肉が感じられたその腕の、一瞬の感触を思い出してまた胸の鼓動が早くなる。
「連絡がついてよかったですね」
隣に立っていた顔見知りの女子社員がホッとした様子で話しかけてきたので、雪乃は慌てて目線を外して答える。
「そうですね。早く出られたらいいですね。」
少し話していると インターホンから注意を促す声が聞こえてすぐエレベーターの扉が開き、外には警備員が立っていた。
上がり始めてすぐ止まったのでエレベーターとフロアに段差が数十センチ出来ていた。
「ご迷惑をかけて申し訳ありません。足元に気をつけて降りてください。」
緊張していた空気が緩んで、皆が外に出ようと動き出した時 目の前の背中が振り向いて 女子社員に会釈してから 雪乃に声をかけた。
「大丈夫だった?永山さん。」
澤田洋介
それが雪乃の“背中の君”の名前である。
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