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「託実、大丈夫?」
一瞬の眩暈も今は落ち着いた。
視界が歪むこともない。
兄さんの問いかけに、ゆっくりと頷くと、
百花が眠るICUへと向かう。
ICUの前、雪貴とその彼女、
唯ちゃんの姿を捕らえる。
「来てくれてたのか?」
今更、気がついたかと主張せんばかりの
無言の睨みが雪貴から伝わる。
「託実さん、どうして」
隣にいる、唯ちゃんは突然の俺の登場に
言葉を失ってただ……俺と雪貴を交互に見つめる。
「唯ちゃん、久しぶりだね。
最近、調子はどう?
また体調が優れなくなったら何時でも私を頼って来るんだよ。
雪貴も順調そうだね」
にこやかに笑みを携えて、医者の顔で接する裕兄さん。
「裕先生……、どうして?」
唯ちゃんが助け舟を求めたのは兄さん。
兄さんが俺と百花ことを説明している間に
俺は奥から裕真兄さんに手招きされるままに
着替えと消毒を済ませて中へと入っていく。
「……百花……」
点滴の針が刺さる細い腕にゆっくりと触れて
その指先に俺自身の指先を静かに絡める。
百花……、やっと捕まえた。
★
数日後、百花は手筈通り
ICUを出て、役員棟の伊舎堂の特別室へと移された。
百花の意識は今も回復しない。
交通事故による一次損傷からの下肢の骨折。
第二次損傷からの頭部裂傷。
頭部へのダメージが思ったよりも経度だったのが、
検査の後の救いだった。
そして第三次損傷になる、転倒時の腹部損傷。
出血量が多くて、一時は危険な状態に陥ったらしい手術での出来事。
聞くだけで、
百花の身体への損傷が大きかったことは伺える。
何時目覚めるか、医者にもわからない。
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