25.星空と君の手 

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「ねぇ、託実……。  託実がずっと病室で演奏していた曲、  昔、聴いたことあるんだ。  お姉ちゃんの告別式の時に一度だけ」 そう……お姉ちゃんとの最期の日に、 一度だけ聞いた、忘れられないサウンド。 「星空と君の手。  理佳が亡くなった後、隆雪と一緒に一晩で作ったんだ。  Ansyalの曲って言うよりは、俺と隆雪の曲かな。  ボーカルなんて言えるもんじゃなかったけど、  演奏しながら歌ってさ。  あの時は、自己満足だった。  けど……百花と出逢って、あの曲を今度はAnsyalの曲として  世に送り出してみたいと思った。  百花に……受け取って欲しい」 託実はそうやって、真っ直ぐに私を見据えて告げた。 「もう届いてるよ。  十分なほどに……。  私はその曲と出逢えて、この場所に戻ってこられたんだもん。  託実、お願いがあるの。    お祖父ちゃんに頼んで、  この部屋にイーゼルとキャンパスを運び込んでくれないかな。  交通事故にあったけど、私の両手が無事なのは  多分、神様が『絵』を描いて伝えなさいって背中を押してくれたんだと思うの。  ずっと描けなかったけど、  今なら、描けそうな気がするから。  櫻柳家主催の展覧会に出す絵画を……。  そのタイトルに、託実と隆雪さんと、お姉ちゃんの思い出が沢山詰まった  その曲名を使わせて貰ってもいい?」 ずっと脳裏に奏でられていた遠い昔の演奏。 何度も何度も脳裏に掠めながら、 何時しか……忘れてしまっていた大切な音楽。 だけどそのメッセージを取り戻した今だから、 私は私らしく、絵を描くことが出来るのかもしれない。 ありのままの曇りない私自身の心で。 「わかった。  だったら、俺からも予約。  展覧会に出してもいい。  だけどその絵は、俺にプレゼントして欲しい。  Ansyalが再び活動を始めた時、  『星空と君の手』はリリースする。  その時のジャケットとしても使わせてほしい」 そう言った託実は、今もベッドに眠り続ける私を 布団越しに抱きしめてくれた。 「体……痛くないか?」 「今は大丈夫。  託実は仕事しなくていいの?」 ずっと気になってた問いかけ。
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