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「…ごめんなさい。私が貴方に未来を教えたら、未来が変わってしまって、私が未来に戻れた時に私の存在がなくなるかもしれないの。だから、詳しくは話せない」
絢乃が申し訳なさそうにそう告げれば、男は落胆の色を見せた。
その落胆の色が余りにも強く、絢乃はいたたまれなくなり、俯いた。
「……ごめんなさい」
「いや。そなたが気に病む事は無い。言われてみれば、そなたの言う通りだ。そなたは悪くは無いのだから、顔を上げなさい」
男はそう言ってはくれたものの、やはりどこか落胆の色を残していた。
男が何者かは分からないが、先程の反応から察するに、恐らくは男自身が天下を狙う武将か、男の主が天下を狙う武将であろう。
どちらにしろ、未来を知る事は、この男にとって利があったのだ。
普通、未来など知りたくとも知る事は叶わない為、未来が分かるかもしれないなどという期待は持たないが、今は目の前に未来を知る者がいる。
だが、それにも関わらず未来を知る事が出来ないとなれば、男が落胆するのも無理は無い。
「未来などそう簡単に知る事が出来るものではない。いや、未来を知りたいなど望んで良いものではないのだ。それは人が望んで良いものではない。それは神仏の領域だ」
「あの…」
どこか自分に言い聞かせる様な男の呟きに、絢乃は恐る恐る話し掛けた。
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