51人が本棚に入れています
本棚に追加
「もう一度だけ聞く。足を怪我しているのか?」
男の真直ぐな視線に絢乃が耐えられなくなった頃、男は静かな声でそう問い掛けてきた。
絢乃は否定しようと口を開くが、男の顔を見ると言葉がどうしても出てこなかった。
何度か言葉を発しようとするが、その度に言葉は消えてゆき、やがて絢乃は観念したように頷いた。
そんな絢乃の反応に、男は視線を絢乃の足元へと向けると、絢乃の右足に触れた。
触れられるとは思っていなかった絢乃は、その冷たい指先の感触に思わず小さな悲鳴を上げたが、男は構わずに絢乃の足の具合を看ていた。
「腫れているな。足を挫いたのか…。鼻緒も切れているし、指の合間も擦り切れているな。これでは歩けまい」
男はそっと細い指先で、鼻緒により擦り切れた指の合間をなぞる。
その行動に、絢乃の羞恥は極限に達しようとしていた。
たとえ診察の様なものでも、男に足をじっと見られるだけでも恥ずかしいというのに、指先で触れられたとあれば、どうして良いか分からなかった。
「…あ…あの!!」
絢乃が顔を赤くしながら声を掛けると、男は絢乃の足から手をすっと引き、立ち上がった為、絢乃は安堵の息を漏らした。
だが、その安息も束の間であった。
「仕方がない。しっかり掴まっていなさい」
男はそう言うと、絢乃を抱き上げた。
細身に見えても、やはり成人男性なのだろう。男は軽々と絢乃を抱き上げていた。
密着した身体や、絢乃を支える逞しい腕に、男性に免疫の薄い絢乃が動揺したのは言うまでも無い。
最初のコメントを投稿しよう!