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「ちょっ…待って…」
絢乃が羞恥から暴れれば、男は呆れた様な溜め息を一つ零しながら、絢乃を見下ろした。
「大人しくしていなさい。そなたも落とされたくはないだろう?」
そう言われ、絢乃は小さく頷いた。
流石に抱き上げられた高さから落ちれば、怪我の一つや二つは覚悟しなければならない。
捻挫した足だけでも十分に痛いのだ。
これ以上傷を増やしては堪ったものではない。
「歩けないそなたを運ぶには、これしかなかろう。それとも荷物のように担がれたいのか?」
「もっと嫌です!」
男の言葉に絢乃は即答した。
担がれるくらいなら、まだ抱き上げられた方がましである。
絢乃は顔を赤くしたまま男を睨み付けたのだが、そんな絢乃の反応が面白かったのか、男は見惚れるような綺麗な笑みを見せた。
その笑みに絢乃の鼓動は跳ね上がった。
「そなたは、つくづく面白い娘だ。担がれたくないのならば大人しく掴まっていなさい」
「…は、い…」
絢乃は暫く男を見つめていたが、やがて諦めた様にそっと男の肩へと手を伸ばし、掴まった。
男は絢乃を抱き上げたまま城内へと戻ると、静まり返った城内を歩いて行く。
そして、とある部屋に辿り着くと、男は襖を開け中に入り、絢乃をそっと畳に下ろすと座らせた。
戦国時代の城について、絢乃は詳しくは知らない。
城内の部屋というと、どうしても広い部屋という印象が強かった為、今絢乃が通された部屋は狭いと感じた。
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