-戦国の世へ-

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目の前の男が何者かは分からないが、身形や雰囲気から察するに高い地位にいると推測された。 そんな人物が使う部屋とすれば尚更狭く感じられたのだが、男が室内に灯を灯し、暗かった室内が明るく照らされると、この部屋が狭い理由が分かった。 「……茶室?」 部屋の上座に床の間があり、その近くに茶釜があった。 そう。この部屋は茶室である為、比較的狭い造りなのだろう。 だが、ごく一般的な家庭で育った絢乃にとっては有り難かった。 広い部屋になど通されていたら落ち着かなかったが、こじんまりとした茶室に通された事で、絢乃はいくらか安堵していた。 「すまないが、手当てをする道具が手元に無い。日が昇ったら医師に診させよう。恐らくは捻挫であろうが、骨に異常が無いとも言い切れぬ。とにかく今夜は安静にしていなさい」 「そんな…大丈夫です。捻挫ですから、医者は…」 必要無いと絢乃は手を振り、固辞しようとしたが、男の鋭い視線に絢乃はそれ以上言葉を紡げなかった。 「…う…。分かりました…」 無言の攻防を繰り広げる間も無く、絢乃はすぐに全面降伏をした。 今までのやり取りから、目の前の男が愚かな人間だとは思えない。 恐らくは智将と呼ばれる部類だろう。 ひょっとしたら後世に名を残している者かもしれない。 そんな人物に対して、真っ向から対抗する度胸は絢乃には無い。 立ち上がり、茶の道具を出し始めた男の背を絢乃は見つめた。
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