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もしかしたら両方かもしれなかった。
「過度な緊張はほぐれた様だな。…改めて話を聞かせて欲しい。そなたは何者なのだ?」
「…それ…は…」
絢乃は茶碗へと視線を落とすと言葉に詰まった。
この男は聡い。下手な嘘はすぐに見破られる。
嘘を吐けば、怪しい人間と拘束されるかもしれない。
もっとも、真実を口にしたところで信じては貰えず、狂人扱いされるだろう。
いや、それならばまだ良いかもしれない。
馬鹿にするなと斬られるかもしれない。
絢乃は茶碗を持つ手に力が入る。
何が最善なのか全く分からず、絢乃は目を伏せた。
(何が正しい選択かなんて、分からない。選択を間違えたら、死ぬかもしれない。でも…)
絢乃は一瞬きつく目を閉じたが、迷いを断ち切る様に顔を上げると、男を見た。
「…私の名前は如月絢乃と言います」
「どのような字なのだ?」
「如月は…二月を意味する如月と同じ漢字です。絢乃は、絢爛の絢の字に乃と」
絢乃は畳の上に指で己の名を書きながら説明をする。
男は、そんな絢乃の指の動きを見つめていたが、やがて、理解したように頷いてみせた。
男が頷いたのを見た絢乃は、一つ深呼吸をすると、再び口を開く。
嘘を吐くか、真実を語るか…絢乃は直前まで迷っていたが、絢乃が下した決断は…
「…今から言う事は…信じて貰えないかもしれません。でも、本当の事なんです。…私は…四百年以上先の世の人間です」
絢乃が選んだ答えは、真実を語る方であった。
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