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絢乃は、友達と夏祭りへ出掛け、そこで簪を無くした事。そして、簪を咥えていた一匹の黒猫を追いかけた事。
全て正直に男へ話した。
「私の簪を咥えていた黒猫を追いかけてたら、岩に躓いて転んだんです。そうしたら…ここに…さっきの場所に居たんです。信じられない話なのは分かってます。でも嘘じゃありません!」
絢乃はそう言うと、己の話が本当だと証明する為に、手にしていた巾着から携帯や小銭、紙幣、プリクラなど…戦国時代には存在しない物を取り出し、男の前に並べた。
「これが証拠です!これ…未来のものです。この時代では見た事が無いものですよね?今の話は嘘じゃないんです!信じて下さい!」
「…………」
絢乃はそっと男の様子を窺ったが、男は依然として無言であり、何か思案する様に瞳を閉じたまま微動だにしない姿に絢乃の不安は膨れ上がっていく。
「あ、あの」
「そなたの話は分かった」
「へ?」
沈黙に耐え兼ね、絢乃が男に声をかけると同時に男の口からは予想外の言葉が紡がれ、絢乃は思わず間抜けな声を上げていた。
「そなたの話は分かったと言ったのだ」
「…信じて…くれるんですか?」
絢乃が驚いた様に呟けば、男は小さく笑いながら茶釜の方へと向かい、腰を下ろす。
そして、再び流れる様な所作で新しい茶を点て始めた。
やがて茶筅の音が止み、男は茶碗を手にすると、自分が点てた茶を見つめた。
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