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「そなたが何者かずっと考えていた。我等と敵対する者だとすれば、そなたは余りにも隙だらけだ。最初はそう装う事で、こちらを油断させているのかとも思ったが…私が出した茶を何の躊躇いもなく口にしたあたり、そなたには警戒心というものが全く無い」
仮に刺客だとすれば、あんなにも素直に…何の疑いもなく男が出した茶を口になどしないだろう。
男はそこまで言うと、視線だけを流す様に絢乃に向けた。
その妖艶さに、人を惑わす魔の様な瞳に絢乃の心臓は、跳ねた。
だが次の瞬間、絢乃の心臓は凍り付いた。
「私が出したあの茶に毒が入っているとは考えなかったのか?」
「えっ……」
絢乃は突き付けられた言葉に言葉を失った。
(…毒…?)
「で…でも、何かを混入させる素振りなんて…」
そんな素振りは無かった。
絢乃が震える声でそう告げれば、男は淡々とした調子で絢乃の希望を打ち砕く。
「毒殺をするのに、相手の目の前で毒物を混入させるほど私はお人好しではない。ここは私の城だ。内側に予め毒物を塗っておいた茶碗が用意されていたとしても、不思議ではないだろう?…それ以外にも、既に毒物の混じった抹茶…毒物の入った湯…。相手に気取られずに毒物を混入する方法など、いくらでもある。そうは思わぬか?」
男の言う通りだった。
男が出した茶碗に毒が塗られていない保障はない。
抹茶に…湯に予め毒物が入っていないとも限らない。
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