-戦国の世へ-

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茶を点てるまでの間は見ていたが、それ以前…茶碗や抹茶の入った棗が棚に置かれるまでは見ていない。 更に言うならば、茶釜に水が入れられたのも見ていない。 絢乃がこの部屋に来た時には、茶碗と棗は棚にあり、茶釜に水は入っていた。 男が棚から茶碗と棗を取り出し、湯を沸かした所しか絢乃は見ていない。 「………そ…んな…」 茶碗を持つ絢乃の手は自然と、小刻みにかたかたと震えた。 毒物がどんな物かは知らない。 だが、本や映画、テレビドラマで見る限り、息苦しくなったり、血を吐いたりと相当苦しんでいた印象がある。 そして、即効性の毒物と遅効性の毒物があると、絢乃も知識としては知っていた。 無味無臭の毒や、一滴でも致死量となる猛毒が存在することも。 今は何ともなくとも、近い内にそんな苦痛が訪れると思うと、とてつもない恐怖に絢乃は襲われた。 静かに忍び寄る死神の足音に、絢乃の恐怖は募っていく。 (…さっき、私の突拍子もない話にあっさり納得した様子だったのも、実は私を殺すつもりだからなの?私の話の真偽なんてどうでも良かったからなの?私の話を信じてくれたんじゃなくて…) 絢乃の話を信じたのではなく、どうでも良かったから、あんなにもあっさりしていた。 確かに、もうじき死ぬ相手の身の上話の真偽など、どうでも良いだろう。 話が嘘であろうと真実であろうと、相手は死ぬのだから。
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